迦楼羅王像とは?|三十三間堂に安置された謎の守護神
千手観音を守護する28体の神々「二十八部衆」の中でも、ひときわ異彩を放つのが、半鳥半人の姿で横笛を奏でる迦楼羅王像です。(鳥の顔の仏像)
本記事では、三十三間堂に安置されているこの不思議で神秘的な仏像の特徴や歴史、そしてその意味に迫っていきます。
- 像高:約163.9cm(約1.6メートル)
- 制作時代:鎌倉時代
- 構造:木造(寄木造り)彩色仏像
- 姿:鳥の頭部を持ち、人間の体に翼を生やした半鳥半人の姿で、横笛を吹く姿勢
- 配置場所:三十三間堂の千手観音像の前、二十八部衆像の一尊
三十三間堂の二十八部衆像はすべて国宝指定されており、その中でも迦楼羅王像は、羽の広がり・精巧な衣文・豊かな表情など、非常に高い芸術性を誇ります。
二十八部衆の一尊であり、千手観音の眷属(守護する部下のような存在)として仏法を守る仏様の一つです。
密教では不動明王の背後の燃え盛る炎(迦楼羅炎)は迦楼羅王の吐き出す火炎を象徴しています。また、タイの国章やインドネシア航空のロゴマークにもガルダが使われているなど、広く信仰と文化に深く根ざした霊鳥です。
🔥 迦楼羅王の起源と信仰|造形美と信仰の融合
迦楼羅王は、インド神話の神鳥「ガルダ(Garuda)」を起源とし、口から炎を吐いて毒蛇を食らう霊鳥として信仰されています。仏教では、悪や煩悩を焼き尽くす守護神として尊ばれ、延命・病気除け・災厄除けのご利益があるとされます。
その姿は、鳥の頭・人の体・翼を持つ独特なフォルムで、三十三間堂の仏像群の中でも圧倒的な存在感を放っています。
🏛 歴史的背景
三十三間堂は、後白河上皇の願いにより、1164年に平清盛の協力で創建されました。本堂内の柱間が33あることからこの名がつけられ、「観音菩薩が33の姿で人々を救う」という教えにちなんでいます。
1249年の火災で大半の仏像が焼失したものの、1266年に後嵯峨上皇の命で再建。現在の本堂や仏像群はこの時期に再整備されました。
迦楼羅王像もこの鎌倉時代の再建時の作とされ、写実的な造形と迫力ある姿で、現代にまでその存在感を伝えています。
🐍 仏像としての特徴と意味
- 迦楼羅王はインド神話の神鳥ガルダを起源とし、仏教の守護神で八部衆や二十八部衆の一尊として信仰されています。
- 鳥の頭部と人間の体を持つ半鳥人(ハーフバードマン)として表現され、背中に赤い翼を広げ、口からは金色の炎を吐く姿が特徴的です。
- 迦楼羅は毒蛇(ナーガ)や悪龍を常食とし、それらが象徴する煩悩や悪を食い尽くす霊鳥で、衆生を煩悩の苦しみから守護する存在です。
- 仏教密教では降魔(悪霊退散)、病気除け、延命、蛇の毒からの防御、雨乞いや雨止めの神徳があるとされます。
- 迦楼羅炎は不動明王の背後の燃える炎であり、迦楼羅王の吐く炎の象徴でもあります。
- 三十三間堂の迦楼羅王像は、リアルな表情や彩色、装飾が鎌倉期の優れた彫刻技術を示し、横笛を吹く姿など明確な個性も持つ国宝仏像の一つです。
- その力強い姿は「悪や煩悩を打ち払い、神聖な力で衆生を護る守護神」の象徴であり、信仰者の心の平安と安全を願う象徴的な存在となっています。
仏教では音楽も神聖な行為とされ、横笛を奏でる迦楼羅像には音の力で悪を祓う力が込められていると考えられています。
🛡 なぜ迦楼羅は二十八部衆に含まれるのか?
二十八部衆は、千手観音の守護神団であり、迦楼羅王はそのうちの一尊として配置されています。
彼の起源である「ガルダ」は、インドの神々に仕える乗り物であり、神聖な力を持つ存在。仏教ではその役割が引き継がれ、仏法を守る護法善神として強い信仰の対象となりました。
🎵 なぜ横笛を持つのか?
諸説ありますが、主に以下のような背景があります。
- 横笛(龍笛)を吹く姿は日本独自の表現であり、インド神話の神鳥ガルダのイメージに音楽神的要素を加えたものと考えられています。
- 迦楼羅は悪霊や煩悩を炎で焼き尽くす守護神ですが、その力強さの象徴として「警笛を鳴らす」役割も重視され、横笛を持つ姿が「悪霊を退散させる警告音を発する」という意味を持つとされています。
- 実際の仏像では、笛を吹く姿が「今まさに吹こうとしている瞬間」を表しており、その姿に神聖で厳格な響きや「音楽の力で邪気を祓う」という思想が込められています。
- 三十三間堂の迦楼羅像は鎌倉時代の優れた彫刻作品で、リアルな表現と共に音楽的な美しさが加味されているため、横笛は象徴的な道具として強調されています。
- また、仏教では音楽は神聖なものとされ、仏様が音楽を好むという伝承もあり、護法神としての迦楼羅が音楽を奏でることで衆生を守るという意味合いもあります。
まとめると、迦楼羅像の横笛は「悪霊退散の警告音」「神聖な音楽による守護」などの象徴的な意味合いが込められ、形の上でも美術的な表現として大切にされているのです。
🔥 火炎や龍と関係する伝説・経典とは?
- 迦楼羅はインド神話の神鳥ガルダを起源とし、仏教に取り込まれた護法神です。ガルダは口から金色の火を吐き、毒蛇(ナーガ族の龍や蛇)を食べるとされ、それが迦楼羅の特徴とされています。
- 毒蛇は仏教において煩悩や悪の象徴とされるため、毒蛇を食べる迦楼羅は煩悩を焼き尽くし退治する霊鳥としての信仰が生まれました。
- 経典や密教の修法では、迦楼羅を本尊とした「迦楼羅法」があり、降魔や病除け、延命、祈雨、止風雨などの利益があるとされています。
- 不動明王の背後にある炎の光背「迦楼羅焔」は、迦楼羅が吐く炎の象徴であり、悪を焼き尽くす力を表しています。
- また、迦楼羅は那羅延天の乗り物としても知られ、那羅延天はヒンドゥー教のヴィシュヌ神の転生とされ、迦楼羅との関係が強調されています。
- これらの伝説は、インド神話やバラモン教の神話と仏教が融合して形成されたもので、『金光明最勝王経』『千手観音造次第法儀軌』などに二十八部衆や八部衆の守護神として記されています。
まとめると、迦楼羅が火炎や龍と結びつくのは、インド神話の神鳥ガルダが火炎を吐き毒蛇を食べるという伝説から発展し、仏教の悪魔退散や煩悩を焼き尽くす護法善神として位置づけられたためです。
護法善神とは…「仏法と信仰者を守る神聖な守護神」であり、仏教における守護の役割を担う神々のこと。
まとめ|信仰と美術が融合した守護神の姿
三十三間堂に安置される迦楼羅王像は、インド神話の神鳥ガルダを起源に持ち、煩悩や悪を焼き尽くす力強い守護神として、日本独自の信仰と彫刻美術の中で昇華された存在です。
鳥の顔に人間の体、翼を持ち、横笛を吹きながらリズムをとって少し浮かせた足、まさに異形の中の神聖さを表しています。
そして、日本の「烏天狗」のもとになりました。
異彩を放った存在感に魅入ってしまいました。シンプルにかっこいいです😊
歴史的背景、彫刻技術、宗教的意味を全て兼ね備えたこの像は、三十三間堂を訪れた際にはぜひ注目してほしい国宝の一尊です。
ちなみに迦楼羅王は「天部の仏像」であり、特に守護神グループ(二十八部衆)に属する天部尊とされています。
実際に会いに行くには?|三十三間堂へのアクセス

横笛を手にした半鳥半人の守護神・迦楼羅王像に会いたくなった方も多いのではないでしょうか。
この仏像は、京都・東山区にある 三十三間堂(正式名称:蓮華王院本堂) に安置されています。堂内には千体千手観音像や二十八部衆像がずらりと並び、圧巻の空間が広がっています。
その中でも、異彩を放つのが迦楼羅王像。横笛を持つ独特の姿は、静けさの中にどこか神秘的な力を感じさせてくれます。
三十三間堂についてさらに詳しく知りたい方は、こちらの記事もどうぞ👇
▶︎ 【三十三間堂の千体千手観音像】圧巻の仏像群とその魅力
三十三間堂(蓮華王院)へのアクセス
- 住所:京都府京都市東山区三十三間堂廻町657
- 公式サイト:https://www.sanjusangendo.jp/
※最新情報は公式HPでご確認ください
- JR「京都駅」から市バス100・206系統で約10分、「博物館三十三間堂前」下車すぐ
- 京阪電車「七条駅」から徒歩約7分

公共交通機関でのアクセスも良く、京都観光の途中に立ち寄ることもできます。近隣には京都国立博物館や清水寺もあり、歴史散策にもぴったりのエリアです。
他の寺院にある迦楼羅像の紹介
迦楼羅王は日本各地の名刹で祀られており、時代や様式ごとに異なる表情を見せてくれます。以下の寺院では、実際に迦楼羅像を拝観することができます。
奈良県・興福寺(国宝館)
奈良時代に作られた非常に貴重な国宝の迦楼羅王像(像高149cm)が収蔵されています。脱活乾漆造という古代の技法で作られ、彩色も一部残る非常に古い仏像で、国宝館にて常時公開されています。写実性というよりも神秘性と荘厳さを感じさせる造形です。
福岡県・雷山千如寺大悲王院(らいざん せんにょじ だいひおういん)
こちらには像高85.8cmの迦楼羅王像があり、やはり二十八部衆の一尊として安置されています。重要文化財の千手観音像と共に祀られ、九州における貴重な仏教美術の一例として知られています。
迦楼羅王像は、仏教の信仰と芸術が融合した存在として、日本各地にその姿を残しています。奈良・京都(本記事で紹介した三十三間堂(蓮華王院))・福岡と、それぞれの地域・時代によって造形や表現の違いが見られるのも魅力の一つです。もし実際に拝観できる機会があれば、ぜひそれぞれの迦楼羅王の姿を見比べてみてください。
おわりに|仏像を通して心にふれる時間を
仏像の世界は、本当に、奥深くて、美しくて、人の心に静かに響くものだと思います。
そこには、言葉にしきれない感動や、目の前の仏像から伝わってくる優しさ、強さ、そして静けさがあります。
それを理解できる人は少ないかもしれないけれど、私が発信し続けることで、「なんかいいかも」って思ってくれる人が、きっと少しずつ増えていくーーー
仏像の魅力を、もっともっと、世の中に伝えていけますように🙏✨
そんな思いを込めて、このブログを書いています😊
🇺🇸 English Summary(英語要約)
Karura Statue at Sanjūsangen-dō
The Karura statue is one of the 28 Guardian Deities (Nijūhachi Bushū) enshrined in Sanjūsangen-dō in Kyoto, Japan. Created during the Kamakura period, it stands approximately 163.9 cm tall and is a wooden, polychrome sculpture crafted using the yosegi-zukuri (joined wood-block construction) technique.
Karura, derived from the Hindu bird deity Garuda, is depicted as a half-human, half-bird figure with wings and a bird-like head, uniquely holding a transverse flute. This detail is believed to symbolize the power of sacred music to ward off evil and to serve as a warning sound against demons. The statue is also known for its dynamic wings, finely carved robes, and realistic facial features.
Historically, Sanjūsangen-dō was founded in 1164 by Emperor Go-Shirakawa and reconstructed in 1266 after a major fire. The current Karura statue is believed to have been made during this reconstruction.
Symbolically, Karura is known to breathe golden flames and consume venomous serpents, representing the elimination of evil and worldly desires. In Esoteric Buddhism, Karura is linked with Fudō Myōō’s flaming halo (Karura Flame) and serves as a protector of the Dharma.
Karura also appears in various cultural contexts, such as the Thai national emblem and the logo of Garuda Indonesia Airlines, showing the wide-reaching influence of this mythological creature.