宇治・平等院鳳凰堂|【国宝】阿弥陀如来坐像

阿弥陀如来のやさしいまなざし
雲に乗り、来迎する姿で知られる阿弥陀如来。そのお顔はやさしく、まなざしはあたたかく、見ているこちらの心をそっと包み込んでくれるようです。
平等院鳳凰堂の御本尊である「阿弥陀如来坐像」は、平安時代後期の天喜元年(1053年)に造像された国宝です。日本彫刻史上著名な仏師・定朝の作であり、確証されている唯一の現存作品です。
彫刻技法と特徴
- 技法:寄木造
- 様式:定朝様式(日本独自の仏像様式)
- 材質:木造・漆箔仕上げ
- 像高:約277.2cm
姿・表現
- 『蓮華座』の上に安置され、半眼で静かに人々を見下ろすような柔和な表情、リラックスしながらも集中する瞑想姿勢が特徴です。
- その表情は「かぎりないやさしさ」に溢れ、円満な顔立ち、伏し目がちな大きな眼差しも特徴的です。
- 手の形は、『両手をへそ前で重ね合わせて親指と人差し指で輪を作る「上品上生印(定印)」』です。この印相は、阿弥陀如来の定印と呼ばれ、人々を救おうとする意思を表しています。両手の掌を上に向け膝の上で組む形態で、禅定印とも関連しています。
文化的意義
平等院阿弥陀如来坐像は、浄土信仰の象徴であり、藤原頼通が現世に極楽浄土を再現しようとした思想の現れです。
項目 | 内容 |
---|---|
作者 | 定朝(じょうちょう) |
制作年代 | 天喜元年(1053年) |
技法/様式 | 寄木造・定朝様式 |
材質 | 木造・漆箔 |
大きさ | 約277.2cm |
安置場所 | 平等院鳳凰堂中央 |
文化財指定 | 国宝 |
像の背後には後光を表現する二重円光、来迎図(九品来迎図)などもあり、堂内全体で極楽浄土の世界観が表現されています。
※「二重円光」とは…仏像の頭部(頭光)と身体部(身光)をそれぞれ円形に表現し、二重の円光として描く仏教美術用語で、阿弥陀如来像などに多く見られる光背のこと
定朝の仏像技法
寄木造(よせぎづくり)技法の完成形
定朝は複数の木材を組み合わせて一体の仏像を造る寄木造を開発・完成させました。この技法により、大型ながら軽量で強度のある像の制作が可能となり、阿弥陀如来坐像も頭部や胴体などを分割して作り、それらを組み合わせて一体化しています。これにより表面の仕上げや細部の彫刻が精密に表現できるようになりました。
「定朝じょうちょう様式」と呼ばれる彫刻様式の確立
定朝は穏やかで優美な表情、丸みのある柔らかなプロポーション、自然でバランスの良い全体像を特徴とする新しい様式を生み出しました。阿弥陀如来坐像は頬が丸く穏やかな顔立ち、かつ身体のボリューム感を抑えた滑らかな曲線の衣文表現が施され、これが日本独特の仏像美の典型となっています。
精神性の表現
阿弥陀如来像は半眼の表情や柔和な微笑みをたたえ、「定朝様微笑」とも称される精神の落ち着きと慈悲の深さを表現。これが日本の浄土信仰や仏教美術に大きな影響を与えました。
以上のことから、平等院鳳凰堂の阿弥陀如来坐像には、定朝の革新的な寄木造技法とそれによって可能となった繊細で穏やかな表現を特徴とする定朝様式の彫刻美が明確に反映されています。これにより日本仏像制作の基礎が築かれ、平安時代後期以降の多くの仏像に影響を与えました。
定朝様式の美的特徴とは
穏やかで円満な表情とやわらかな丸みのある顔立ち
定朝が確立した「定朝様式」は、頬や顔全体にまあるく豊かなボリューム感を持たせ、半眼で瞑想的かつ慈悲深い表情を表現します。この柔和な表情は、日本人の美意識に深く根づき、現代まで「仏の本様(理想形)」と称され続けています。
安定した自然なプロポーションとバランスの良さ
肉体の造形は誇張や過度な装飾を避け、身体の各部位の調和を保った写実的かつ理想化された形態。特に衣文の流れは浅めで流麗に、省略しつつも抑制の効いた表現で統一感を演出しています。
寄木造技法による繊細かつ丈夫な構造
寄木造は複数の木材を細かく組み合わせるため、像の重量軽減と耐久性向上を可能とし、表面の仕上げや細部の彫刻に精密さをもたらしました。この技法は時代を超え日本の仏像制作の基本原理となっています。
精神性の表現の普遍性
定朝の仏像は、瞑想や慈悲を感じさせる「半眼の表情」と静謐な佇まいを持ち、宗教的のみならず芸術的にも心を打つ神秘性を備えています。これは時代や文化を超えて人々に共感を呼びます。
洗練された簡潔美
過剰な装飾ではなく、形式美と静的な優雅さで完成度の高い仏像美を示し、平安時代貴族の好みを反映しつつ、現在も仏師の手本となる永続的な美的様式を築きました。
これらの美的特徴が融合し、約千年を経た現代でも「定朝様式」は日本仏像彫刻の理想像として不変の価値を持ち続けていることが最大の時代を超えた魅力です。
定朝が表現した仏の姿勢や意図とは
悟りと慈悲の理想的な姿の表現
定朝は阿弥陀如来像を「寄木造」という高度な技術を用いて造り、穏やかで円満な顔立ちと落ち着いた佇まいによって、「仏の本様」と称される理想の仏像様式を確立しました。この像は、まるで満月のようなまろやかで豊かな表情を持ち、慈悲深く、かつ威厳を備えた姿勢で、人々に安らぎと信仰の対象としての共感を与えます。
来迎の意味をもつ印相(手の形)
平等院鳳凰堂の阿弥陀如来坐像の印相は「定印」と呼ばれ、両手をお腹の前で組む構えです。これは教えを説きつつ衆生を救う姿を表します。この姿勢自体が、阿弥陀如来が西方浄土から来迎して衆生を導くという信仰(浄土信仰)の意図を強く示しています。
仏の姿勢に込められた精神性
阿弥陀如来坐像は半眼で伏し目がちな視線をもち、瞑想的かつ静謐な状態を表します。これは、内なる悟り(心の中の平静)と外なる衆生への慈悲の両面を象徴し、信仰者が極楽浄土へ導かれる安心感を与える狙いがあります。
平安時代の浄土思想の具現化
像の造立自体が、当時の有力者・藤原頼通の意図として「この世に極楽浄土を現す」思想と結び付き、定朝はその信仰の理想像を具体的な造形として表現しました。
まとめると、定朝はこの阿弥陀如来坐像で、「慈悲と威厳を兼ね備えた悟りの理想像」を表現し、浄土への信仰の助けとなるように、安らぎと救済を示す揺るぎない精神性と荘厳さを仏の姿勢や表情に込めたと言えます。
半眼(はんがん)表情による神秘的な魅力とは
「内面と外面、すなわち自身の内側の精神世界と外側の現実世界を同時に見つめている状態」を象徴していることにあります。この半眼はまぶたを半分閉じたような状態であり、心が乱れず内外に偏らない集中力や悟りの境地を表現しているため、仏像が放つ穏やかで深い智慧の雰囲気を醸し出しています。
この表情は、ただ静かに見つめるだけでなく、人々の心を鎮め、精神的な安らぎや祈りの対象としての神秘性を増幅させる効果があるため、多くの鑑賞者がそこに特別な魅力を感じるのです。さらに、半眼の柔らかな視線は慈悲の心を表現し、阿弥陀如来が現世において衆生を見守り救済する存在であることを象徴しています。
つまり、平等院鳳凰堂の阿弥陀如来坐像の半眼の表情は、
- 内なる静けさと外なる慈悲の両立
- 精神的な深さと集中の象徴
- 鑑賞者に安心感と祈りを呼び起こす神秘的なオーラ
を持つことで、その神秘的な魅力を発揮しています。
鳳凰堂という極楽の舞台

鳳凰堂の建物自体が、阿弥陀如来が住まう極楽浄土を表現しています。中央の阿弥陀堂と、その左右に翼を広げたような回廊。屋根には一対の鳳凰像が飾られ、幻想的な光景をつくり出しています。
▶︎平等院鳳凰堂ついて詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください
まとめ|「会いに行ける極楽」へ

美しいだけでなく、心まで癒される阿弥陀如来との出会い。平等院鳳凰堂はまさに、「この世にある極楽浄土」でした。仏像好きな方はもちろん、仏像に興味を持ち始めたばかりの方にもおすすめしたい、特別なひとときがここにあります。
訪れるたびに心が整う場所
実際に訪れると、写真では伝えきれない静けさと荘厳さに包まれます。阿弥陀如来の前に立つと、日々の忙しさや悩みがすっとほどけていくような不思議な感覚に。ここは、ただ美しいだけでなく、「心が整う」場所なのだと実感しました。
ひとり旅にもおすすめ
静かに仏像と向き合いたい方、心の癒しを求める方にぴったりの場所です。公共交通機関でアクセスできるので、ひとり旅にも安心です。
おわりに|仏像を通して心にふれる時間を
仏像の世界は、本当に、奥深くて、美しくて、人の心に静かに響くものだと思います。
そこには、言葉にしきれない感動や、目の前の仏像から伝わってくる優しさ、強さ、そして静けさがあります。
それを理解できる人は少ないかもしれないけれど、私が発信し続けることで、「なんかいいかも」って思ってくれる人が、きっと少しずつ増えていくーーー
仏像の魅力を、もっともっと、世の中に伝えていけますように🙏✨
そんな思いを込めて、このブログを書いています😊
平等院鳳凰堂 アクセス情報
住所:京都府宇治市宇治蓮華116
- 最寄駅:JR宇治駅から徒歩10分/京阪宇治駅から徒歩10分
- 拝観時間:8:30〜17:30(鳳凰堂内部拝観は要予約)
詳しくは▶︎平等院公式サイトをご確認ください

🇺🇸 English Summary(英語要約)
Amida Nyorai Seated Statue at Byodoin Phoenix Hall
The Amida Nyorai seated statue enshrined in the Phoenix Hall of Byodoin Temple in Uji, Kyoto, is a National Treasure and a masterpiece of the Heian period. Created by the renowned sculptor Jocho in 1053, it embodies the gentle, serene expression characteristic of the era’s Buddhist art. Crafted using the yosegi-zukuri (joined wood-block) technique, the statue exudes a sense of harmony and lightness, reflecting a Pure Land paradise vision.
The Phoenix Hall itself, with its graceful architecture and reflective beauty over the pond, enhances the spiritual impact of the statue. Surrounded by celestial beings carved on the walls and lit by soft natural light, the interior offers a deeply moving, meditative experience for visitors.
This statue is more than just a cultural asset—it is a gateway to peace of mind and an invitation to connect with the ideals of salvation and compassion in Pure Land Buddhism.