心に仏が宿ると唱えた|萬福寺・羅怙羅尊者像に出会って

仏像の種類と特徴

はじめに:仏像ファンには有名な仏像|羅怙羅尊者像

萬福寺と、京都国立博物館で行われた「日本、美のるつぼ」展で2度お会いしております🙏✨

初めて見た時はインパクトが強く「え??」となりましたが、羅怙羅尊者らごらそんじゃという人物の生い立ちや背景を知ると、なぜこのような姿の仏像になったのか、理解ができました。

みなさんにもぜひ知って欲しいです。

羅怙羅尊者像(らごらそんじゃぞう)とは

京都府宇治市の黄檗山萬福寺おうばくさん まんぷくじに伝わる十八羅漢像のひとつで、特異な表現と高い芸術性で知られる仏像です。

造形的特徴

この像は、大きな耳環をつけた羅怙羅尊者が、自らの胸(腹部)を両手で大きく切り開き、その中にお釈迦様の顔を見せているという極めてインパクトのある姿をしています。グロテスクになりがちなところを、非常に品格ある造形でまとめられています。

表現の意図

胸を開いて仏(釈迦)を見せる姿は、「人は誰しもその心の中に仏性が宿る」という仏教の教えを象徴しています。禅思想を端的に可視化した造形といえるでしょう

歴史的背景と制作の経緯

  • 時代と作者:江戸時代前期・寛文4年(1664年)、京都・萬福寺のために中国から招かれた仏師・范道生はんどうせいによって制作されました。范道生は福建省出身で、明清時代の仏像彫刻伝統を継承、わずか約1年の日本滞在中に27体近くの仏像を造ったと伝わります。
  • 制作背景:萬福寺は中国禅宗の系譜を伝える寺です。萬福寺の開祖・隠元いんげん禅師が、日本の仏師では表現しきれない禅宗の思想を形にするために范道生を招いた。
  • 様式:異国情緒あふれる「黄檗様式おうばくようしき」で京都仏教美術に新風をもたらした。

仏像の技法と素材

  • 乾漆技法かんしつぎほう– 木の芯に布を貼り、漆で仕上げる中国伝統技法。日本では平安時代以降ほぼ廃れていたが、范道生によって復活。
  • 装飾:金泥による彩色や精緻な文様が描かれています。また、瞳に水晶を嵌め込み生き生きした表現も見どころ。
  • 大きさ:高さ 約96cm(他の十八羅漢像とほぼ同寸)

羅怙羅尊者とは

  • 人物像:羅怙羅はお釈迦さまがまだ王子だったときに生まれた実の子ども。そしてお釈迦さまの弟子の一人。十八羅漢の一人として崇拝されている。
  • 名前の意味:梵語「ラーフラ」は「妨げ」や「束縛」の意。釈迦の出家時に生まれた「障害」の象徴。
  • 背景:その名に反して、父を慕い幼少から修行の道へ進んだ健気な人物。

十八羅漢(らかん)像とは

萬福寺の大雄寶殿だいおうほうでんの左右にずらりと並べられた18体の阿羅漢あらかん(悟りを開いた聖者)の像を指します。中国明清仏教美術の様式を色濃く残している、日本では珍しい仏像群です。

羅怙羅尊者像は十八羅漢像の中の1体である。

特徴と意義

  • 范道生を中心に制作(1664年)
  • 乾漆造(麻布と漆を何重にも重ねる伝統技法)による立体的で力強い表現
  • 中国様式×日本文化の融合=日中仏教美術交流の象徴
  • 体躯はずっしりとして目鼻立ちがくっきり、各像のポーズや表情も非常に個性的
  • 禅宗の「内なる仏性」を視覚表現し、信仰の深さと説法の分かりやすさを備えている
  • その異国趣味・斬新な発想、繊細な装飾から日本の仏像彫刻史上でも貴重な作品群とされる

禅宗仏像の特徴と他宗派との違い

宗派主な本尊特徴
禅宗(臨済・曹洞・黄檗)釈迦如来坐像(坐っている)シンプルで坐禅姿が中心
浄土宗・真宗阿弥陀如来立像(立っている)来迎印や華やかな装飾
真言宗大日如来(密教仏・曼荼羅)多くの手・独特な冠や持物
天台宗釈迦如来、阿弥陀如来など多様寺院や経典で異なる
日蓮宗大曼荼羅、久遠本師釈迦如来くおん ほんし しゃか にょらい曼荼羅や法華経がシンボル

禅宗仏像の特徴

  • 簡素で質実な坐像
    禅宗では、釈迦如来が多く、坐禅する姿(坐像)が中心です。他宗派のように来迎や複雑な装飾は少なく、落ち着いた表情・佇まいを重視しています。
  • 思想が反映された造形
    禅宗は「自力の悟り」や「坐禅」を重視するため、本尊も「ただ坐る」姿で表されます。
    対照的に、浄土宗・浄土真宗などは「他力本願」を重視し、救いに来る阿弥陀如来立像が多いです。
  • 脇侍や曼荼羅の違い
    附属する脇侍(左右の仏像)も、禅宗は達磨大師や開祖像が並びます。他宗派では観音菩薩や阿弥陀三尊など多彩です。

他宗派との比較ポイント

  • 浄土系や真言系は華やかな装飾・多彩な本尊、禅宗は坐禅・釈迦如来中心で簡潔。
  • 禅宗は**「悟り」「修行」「内省」の象徴表現**が強い。
  • 仏像の表情・仕草も、禅宗は静謐かつ抑制的、他宗派は慈愛や荘厳さを強調。

禅宗仏像は「坐禅と自覚の精神」を象徴し、他宗派の仏像は「救済や密教的力の表現」や「曼荼羅的世界観」を色濃く反映している点に際立った違いがあります。

さいごに

京都国立博物館で開催された「日本、美のるつぼ」展では羅怙羅尊者像はフォトスポットにもなっており、そのインパクトと表現力は圧巻でした。

釈迦の実子であり、名前に「妨げ」の意味を持ちながらも、父のあとを追って修行の道を選んだ羅怙羅。

そんな彼が「自分の胸の中に仏がいる」と示す姿は、禅の本質を表しつつも、深い信心とけなげさが伝わってくるようです。

このような背景を知ると、羅怙羅尊者の思い、そしてより仏像の魅力を感じます。

                  * * *

▼萬福寺の境内や、布袋尊像・羅怙羅尊者像の拝観体験については、こちらの記事もどうぞ。
【萬福寺で出会った布袋尊と羅怙羅尊者像|宇治ひとり旅】

▼京都国立博物館「美のるつぼ」展で出会った羅怙羅尊者像の特別展示の様子は、こちらからどうぞ。
【「美のるつぼ」展(後期)レポ|羅怙羅尊者像に再会した日】


「仏像が好き」「ひとりでゆっくり心を整えたい」と思う誰かに届きますように🍀

※本記事内の写真はすべて筆者が撮影したものです

萬福寺の基本情報

  • 寺名:黄檗山 萬福寺(おうばくざん まんぷくじ)
  • 住所:〒611-0011 京都府宇治市五ヶ庄三番割34
  • 公式HP:https://www.obakusan.or.jp/
  • 拝観情報:羅怙羅尊者像は「大雄宝殿」に安置されています。

🇺🇸 English summary(英語要約)

A Unique Buddhist Statue Loved by Fans: The Rahula Arhat Statue at Manpuku-ji

This article introduces the Rahula Arhat Statue (Ragora Sonja Zō), one of the Eighteen Arhats enshrined at Manpuku-ji Temple in Uji, Kyoto. Known for its striking and unconventional design, the statue depicts Rahula opening his chest to reveal the face of the Buddha inside—a powerful expression of the Buddhist teaching that “everyone has Buddha-nature within.”

Created in 1664 by Chinese sculptor Fan Daosheng (范道生), the statue exemplifies the Ōbaku style brought from China, using the traditional dry lacquer (kanshitsu) technique. This rare sculptural method gives the statue both durability and a graceful finish. The statue’s dignified expression, gold decoration, and lifelike eyes set it apart in Japanese Buddhist art.

Rahula, the historical Buddha’s son, was born at the time of the Buddha’s renunciation, and his name symbolizes “hindrance” or “obstacle.” Despite this, he became a dedicated monk, and his image has become a symbol of devotion and spiritual introspection.

The article also discusses:

  • The Eighteen Arhat statues at Manpuku-ji and their cultural significance
  • The differences between Zen Buddhist statues and those from other sects, focusing on iconography, posture, and symbolic meaning
  • The artistic and religious values of the statue, emphasizing its role in visualizing the teachings of Zen

The author concludes with a personal reflection on seeing the statue both at the temple and in the “Crucible of Beauty” exhibition, finding emotional depth in the story and expression of Rahula.

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