少年のような聖者・五部浄像に出会う|興福寺国宝館で心震えた瞬間

仏像の種類と特徴

はじめに|出会い

阿修羅あしゅら像を目的に訪れた興福寺こうふくじの国宝館。しかし、実際に足を運び印象に残ったのは、展示室の一番奥に静かに佇む、上半身だけの少年のような像五部浄像ごぶじょうぞうでした。象の冠をかぶり、まっすぐ前を見つめるその姿に強く心を惹きつけられました🙏✨

興福寺の五部浄像(ごぶじょうぞう)とは?

奈良時代の脱活乾漆造だっかつかんしつづくりで作られた国宝で、八部衆はちぶしゅうの中の「てん」に相当する存在を表した仏像です。胸から下が失われた状態ながらも、健康的な頬や柔らかな造形、力強い眼差しが特徴的。

興福寺・国宝館にて常時公開されています。

  • 像高:約50cm(上半身のみ)
  • 技法:脱活乾漆造・彩色

※五部浄像は、色界しきかい最上位「浄居天じょうこてん」に住む五人の阿那含聖者あなごんしょうじゃ自在天子じざいてんし普華ふけ天子・遍音へんおん天子・光髪こうはつ天子・意生いしょう天子)を一体で表現したものとされ、仏教の陀羅尼だらにを守護する重要な存在です。


脱活乾漆造の技法とは…奈良時代に流行した技法です。まず木組みで全体の形を決めて、麻布を巻いて原型を造り、その上に木くずと漆を混ぜた「木屎漆こくそうるし」を盛り付けて形を整えるものです。漆を多用し、内部は空洞のため軽量で繊細な表現が可能になります。興福寺の五部浄像は彩色も施されています。

この脱活乾漆技法は、興福寺の八部衆像を含め奈良時代の仏像制作に多く用いられた伝統的な方法で、木材を芯にして漆を幾重にも重ねる手法が特徴です。五部浄像の表情の繊細さや光沢ある彩色はこの技法によるものです。

少年のような姿や表情に込められた意味

幼い少年のような姿でありながら、何か大きな覚悟を秘めた憂愁ゆうしゅうをたたえた瞳が特徴的です。健康的なふくらみのある頬や柔らかな造形、そして強烈な視線と真摯しんしな佇まいは、見る者の心を強く引きつけます。肩や胴体の破損もその儚さや真剣さを強調しています。

象徴的には、五部浄像は「浄居天」という仏教世界の色界最上位に住む聖者グループを一尊の像で表現しています。頭部に象の冠をかぶることで、陸上最大の象を象徴にしてその権威や高い階層での力強さを示しています。象の冠は八部衆の中でも五部浄がリーダー格であることの象徴とされ、仏教世界の護法善神としての重要な役割を映しています

つまり、五部浄像の少年のように見える姿と憂いを含む表情は、高位の聖者としての威厳と仏法守護の責任感、そしてその年齢の若さゆえの儚さや覚悟を象徴しています。

このように、五部浄像の姿や表情は「高い悟りの階層に住む若き聖者」としての厳粛かつ神聖な存在を表し、象の冠はその指導的地位と力強さを示しています。

興福寺での展示では、360度からこの複雑な表情と姿を鑑賞できるため、その象徴性がよく伝わります。


憂愁ゆうしゅう」とは…心の中にある深い悲しみや物思い、寂しさ、切なさといった感情を表す言葉です。気持ちが重く、もの悲しい状態や、未来に対する不安や憂いを伴う沈んだ気分を意味します。文学や芸術においては、こうした感情が美しく表現されることもあります。

八部衆の中の五部浄の位置付け

八部衆(はちぶしゅう)とは

仏教の仏法を守護し供物を捧げる役割を持つ8尊の護法善神の集まりです。もともとはインドで信じられていた異教の八つの神々を仏教に取り込んだもので、その姿は様々な異形の形態をとっています。興福寺の八部衆像は奈良時代(734年頃)に乾漆造で制作され、西金堂本尊釈迦如来像の周囲に安置されていた国宝の美術品です。

「五部浄像」の位置付け

仏法を守護する八部衆の中の一尊です。興福寺の八部衆像は以下の8尊で構成されています:

  1. 五部浄ごぶじょう(天に相当、象の冠をかぶる少年姿でリーダー格)
  2. 沙羯羅さから(龍に相当、頭に蛇を巻く少年の姿)
  3. 鳩槃荼くばんだ(夜叉に相当、口を開け逆立った髪を持つ
  4. 乾闥婆けんだつば(獅子の冠をかぶり目を閉じている)
  5. 阿修羅あしゅら(三面六臂、武装せず改心した戦闘神)
  6. 迦楼羅かるら(鳥の頭を持つ人間姿、ガルーダの化身)
  7. 緊那羅きんなら(一本の角と三眼を持ち人間の姿)
  8. 畢婆迦羅ひばから(大蛇神、唯一髭を蓄えた壮年姿)

八部衆像は武装しているものが多いですが、阿修羅像だけは武装しておらず、その怒りの表情も抑えられており、改心や悔い改めの姿とも解釈されています。

これらの八部衆は元来古代インドの神々ですが、仏教の護法善神としての役割を与えられています。


 興福寺といえば、やはり圧倒的な存在感を放つのが「阿修羅像」。三面六臂の姿に込められた意味や、その魅力を深く知りたい方は、以下の記事で詳しくご紹介しています:
   ▶ 興福寺 阿修羅像の魅力と国宝八部衆について  

まとめ|実際に見ることの感動

本やネットで見るのと、実際に自分の目で見るのとでは、良い意味でギャップを感じることがあります。たとえば、サイズ感(思ったより大きかった、小さかった)や色彩(写真よりも鮮やかだった、印象が違った)、そして心の感じ方(予想以上に感動した)など、画面越しでは伝わらない魅力がたくさんあります。

また、目的としていた仏像だけでなく、思いがけず素晴らしい仏像と出会えることもあります。今回がまさにそうでした。

こうした感動があるからこそ、また実際に寺院を訪れたくなるのだと思います。大人になってからも、心が震えるような体験ができることに感謝し、それをブログという形で綴ることで、さらに自分の中でも追体験ができるのが嬉しいです🎵

これからも仏像をめぐる旅を続けながら、感じたことや出会いの感動を、言葉にして発信していきたいと思います😊

実際に会いに行くには?〜興福寺へのアクセスガイド〜

五部浄像をはじめ、阿修羅像や八部衆像などの国宝仏像に実際に出会えるのが、奈良県にある【興福寺こうふくじ】です。奈良の中心部に位置し、奈良公園や東大寺などの観光地とも隣接しており、アクセスも良好です。

興福寺の国宝館では、今回ご紹介した五部浄像が常設展示されており、間近でその神秘的な眼差しや造形美を堪能することができます。↓

■ 興福寺 国宝館 情報(2025年現在)

  • 【住所】奈良県奈良市登大路町48
  • 【開館時間】9:00〜17:00(最終入館16:45)
  • 【休館日】年中無休(臨時休館あり)

▶︎ 詳細は【興福寺公式サイト】をご確認ください。
展示スケジュールや季節の特別公開情報など、最新の情報も掲載されています。

■ アクセス方法

  • 🚃 近鉄奈良駅から徒歩約5分
  • 🚃 JR奈良駅から徒歩約15分
  • 🚌 奈良交通バス「県庁前」バス停より徒歩すぐ

興福寺周辺には鹿のいる奈良公園や、東大寺、春日大社などの名所も多く、仏像鑑賞とあわせて奈良観光を満喫できます。心震える仏像との出会いを、ぜひご自身の目で体感してみてください。

おわりに|仏像を通して心にふれる時間を

仏像の世界は、本当に、奥深くて、美しくて、人の心に静かに響くものだと思います。

そこには、言葉にしきれない感動や、目の前の仏像から伝わってくる優しさ、強さ、そして静けさがあります。

それを理解できる人は少ないかもしれないけれど、私が発信し続けることで、「なんかいいかも」って思ってくれる人が、きっと少しずつ増えていくーーー

仏像の魅力を、もっともっと、世の中に伝えていけますように🙏✨

そんな思いを込めて、このブログを書いています😊

🇺🇸 English Summary

The Gobu-Jō Statue of Kōfuku-ji Temple – A Youthful Guardian of the Dharma

This article explores the Gobu-Jō statue, a lesser-known but deeply moving Buddhist statue housed at Kōfuku-ji Temple in Nara, Japan. While many visitors come to see the famous Ashura statue, the author was particularly captivated by the Gobu-Jō, a bust of a young boy-like figure wearing an elephant-shaped crown and gazing straight ahead with a profound expression.

The Gobu-Jō represents one of the Eight Legions (Hachibushū), protectors of the Buddha’s teachings. It is a National Treasure from the Nara period, sculpted in the dry lacquer technique and painted. Despite being partially damaged, the statue conveys a strong emotional presence through its serene yet determined expression.

Symbolically, the statue embodies the five Anāgāmins (non-returners) who dwell in the Śuddhāvāsa heavens (Pure Abodes), the highest realms of the form world. These beings are revered as advanced saints and protectors of esoteric Buddhist chants (dhāraṇī).

The article also provides context about the Eight Legions statues at Kōfuku-ji, including their forms and symbolic meanings, and reflects on the emotional impact of seeing the Gobu-Jō statue in person—a reminder of the value of direct encounters with sacred art.

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