京都・東寺の拝観とあわせて訪れたい隠れスポット『観智院』
京都・東寺(とうじ)の境内奥にある塔頭寺院、観智院(かんちいん)──ここには、密やかに、しかし非常に貴重な仏像群が安置されています。
その代表が、唐の時代から伝えられたとされる 五大虚空蔵菩薩像(ごだいこくうぞうぼさつぞう)。それは学問・知恵・記憶を司り、祈願成就や厄除けなどを願う人々から深く信仰されてきた、静かで尊い仏の姿です。
観智院は、観光で賑わう東寺の中にあっても、あまり人の多くない静かな場所。畳に座り、木造の仏像をゆったり眺められる──そんな、落ち着いた時間と空間を味わえる“密かな名所”です。
東寺を訪れたら、よければこの“静かな聖域”にも足を延ばしてみてください。心がすっと整うような、穏やかな時間が待っています。
この記事では、五大虚空蔵菩薩像の由来、仏像それぞれの意味や特徴、そして観智院を訪れる際のヒントを、なるべくやさしい言葉で、仏像初心者の方にもわかりやすくご案内します。
京都でゆっくり過ごしたい方へ。
アクセスの良いホテルや宿はこちらでまとめて探せます。
→楽天トラベル|京都エリアの宿泊一覧
観智院の五大虚空蔵菩薩像|由来・特徴・歴史
観智院本堂の本尊である 五大虚空蔵菩薩像 は、唐時代(9世紀)に真言宗の開祖・空海(くうかい)の弟子、恵運(えうん)によって中国から請来されたと伝わる非常に貴重な木造仏像群です。
- 五尊それぞれが異なる動物に乗る:獅子・象・馬・孔雀・迦楼羅(かるら/ガルーダ)
- 五智如来(大日如来以下の五仏)の教えを象徴し、密教における「五大虚空蔵菩薩」として、無限の知恵・慈悲・そして様々な功徳(息災・増益・厄除けなど)を顕現しています。
- 本尊として安置されている五体は、密教曼荼羅に登場する五大仏の姿を表現しています。
- いずれも蓮の花弁の形をした蓮台に結跏趺坐し、現存する多くの部分は後世に補修されているものの、全体の造形は唐時代の特徴を色濃く残しています。
- 異国的な美術性や密教ならではの荘厳な世界観─すべての存在を包み込む虚空蔵菩薩の智慧─を視覚的に表しています。
- 像高:約70〜75cm、木造一木造りによる古色を帯びた伝統的な風貌。
- 外来の影響が強く、面長な顔立ちや衣装、動物台座は大変ユニークで、日本仏像界でも非常に異国的な美しさとされています。
- 元は山科・安祥寺の本尊であり、観智院建立時に移されたとされています。
その異国的な美しさは日本仏像の中でも特に独自性が強く、日本に現存する唐時代仏像の代表作 として重要文化財に指定されています。

金剛虚空蔵(こんごうこくうぞう/獅子)
東方を守護し黄色の体色で表されます。金剛虚空蔵はその五つの変化身の一つとして知られています。
宝光虚空蔵(ほうこうこくうぞう/象)
南方を守り、象に乗る青色の仏様です。願いを叶え満足を与える慈悲の菩薩とされています。
法界虚空蔵(ほうかいこくうぞう/馬)
五大虚空蔵菩薩の中央に位置し、白色で表されます。白は解脱を意味し、迷いを取り除く仏様として知られています。この菩薩は大日如来に対応するとされ、無限の智恵と慈悲を象徴しています。
蓮華虚空蔵(れんげこくうぞう/孔雀)
西方を守り、赤色をしています。像は蓮華の上に座り、願いに関して施しを与える慈悲深い菩薩として信仰されています。
業用虚空蔵(ごうようこくうぞう/迦楼羅)
北方を守り、黒紫色をしています。不空成就如来に対応し、清浄で実践と成就を導く仏様とされています。
※元々五大虚空蔵菩薩は方位ごとに色が異なる(白・黄・青・赤・黒紫)とされますが、観智院の像は歴史的背景や修復状況の関係で、そういった色彩が失われて現在の無彩色状態となっています。
五大虚空蔵菩薩像が乗る聖獣とその意味
五体の虚空蔵菩薩は、それぞれの徳を象徴する聖獣に乗っています。
- 獅子(ライオン):金剛虚空蔵:力強さや勇気、威厳の象徴です。百獣の王として恐れずに真理を説く力、教えの強さを表します。
- 象:宝光虚空蔵:悟りの実践、障害を乗り越える力、また純白の象は清浄さの象徴とされます。普賢菩薩などが乗る白い象は、智慧の実践や純粋さ、障害を取り除く安定した力を意味します。
- 馬:法界虚空蔵:王や貴族の乗り物として、迅速さや自由、荘厳さ、社会的地位を象徴します。
- 孔雀:蓮華虚空蔵:毒蛇を食べるという神話から、毒(煩悩や災厄)からの守護・浄化の力を意味します。
- 迦楼羅(ガルーダ):業用虚空蔵:インド神話の鳥の王で、決して落ちず悪を退ける存在。「勝利」「最強の守護」を意味し、仏を守護する力の象徴とされています。
これらの動物たちは、それぞれが菩薩や如来が持つ徳や働きを視覚的に表現し、信者の信仰心や安心感をより強める役割を果たしています。
五大虚空蔵菩薩像の安置方法と曼荼羅(まんだら)的配置
観智院の五大虚空蔵菩薩像は、本堂に安置されており、それぞれ蓮の花弁で象った蓮台に結跏趺坐(けっかふざ)しています。五尊の菩薩像は、獅子、象、馬、孔雀、迦楼羅(ガルーダ)というそれぞれ異なる聖獣に乗った姿で配置されています。(※結跏趺坐とは…仏像や修行の座法として重要な姿勢を表し、これは仏教での座法の一つで、両足の甲を反対側の太ももの上に置き、足の裏が上を向くように組んで座る姿勢を指します。特に禅宗の座禅で用いられています。)
全体としては昔は中尊を中心にして五体が東西南北に配され、立体曼荼羅のような形で荘厳に祀られていたのですが、現在は横一列に並べて安置されています。
つまり、五大虚空蔵菩薩像は
- 蓮台に坐し
- それぞれが聖獣に乗る形で表現され
- かつては立体曼荼羅的に中尊中心に五方位に配置されたが
- 現在は横一列で安置
というのが主な安置の特徴です。静かで穏やかな空間で拝観すると、菩薩の慈悲と守護に包まれるような感覚を覚えます。
他にもある観智院の見どころ
① 愛染明王(あいぜんみょうおう )像
江戸時代のもので、赤い顔と六本の腕を持つ憤怒の仏です。愛欲を悟りに浄化するとされ、信者からは良縁や家内安全の願いを込めて祈られています。
② 宮本武蔵が描いた襖絵「鷹の図」や「竹林の図」
客殿は京都市で最古の茶室付き書院とされ、国宝に指定されています。
さらに見逃せないのが、内部は撮影禁止ですが、宮本武蔵が描いた襖絵「鷹の図」や「竹林の図」も間近から見ることができます。
剣豪の意外な一面に触れられるスポットとしても人気です。
まとめと筆者の体験談

筆者が観智院で特に心を惹かれたのは、「動物に乗る菩薩」の姿。静かに佇む仏像の前では、つい時間を忘れて見入ってしまいました。
また、宮本武蔵の襖絵を目にしたときには、約30年前に「絵が薄くなった」と話していた人の言葉を思い出し、文化財は永遠ではなく、**「今この瞬間に見られることがとても貴重」**なのだと実感しました。
庭園に面した縁側で休むと、枯山水の景色や近くの学校から聞こえる学生の声に心が和みます。秋には茶室で紅葉や「ししおどし」の音を感じながら、日本の風情を静かに味わえます。
観智院は、東寺境内にありながら観光客にはあまり知られていない静かなスポットです。重要文化財の五大虚空蔵菩薩像や国宝の客殿、宮本武蔵の襖絵など、見どころがぎゅっと凝縮されています。
京都・東寺を訪れる際は、ぜひ観智院にも足を延ばし、五大虚空蔵菩薩像の前でゆったりと心を落ち着けてみてください。
筆者は、東寺参拝後の夕方に訪れる時間が特にお気に入りです。静かな光と庭園を眺めながら過ごすひとときは、心がすっと整う体験になります😊
観智院(京都・東寺)|拝観方法と注意点
観智院は、東寺の学僧たちが修行や勉学を行った場であり、仏教教育の拠点でもありました。
そのため、五大虚空蔵菩薩像は「学問成就」を願う信仰とも深い関わりを持っています。
- 拝観時間:9:00〜16:30(受付終了)※変動あり
- 普段は非公開だが、特別公開や東寺拝観券に含まれる場合あり
- 体験:写経や塗香体験ができる場合あり(要確認)
- 東寺の境内北側に位置
最新情報は▶︎観智院公式サイトでご確認ください。
観智院へのアクセス|京都駅からの行き方(公共交通)
- 徒歩:京都駅八条口から約20分
- 市バス:「東寺東門前」下車、徒歩すぐ
- 近鉄電車:「東寺駅」から徒歩約10分
詳しいアクセス方法は、下記の記事で詳しくご紹介しています。
▶︎ 【保存版】京都・東寺へのアクセス完全ガイド|電車・バス・徒歩ルート
👇 京都旅行を計画中の方へ
宿泊も検討している方は、こちらから最新の宿泊情報をご覧いただけます。
→楽天トラベル|京都エリアの宿泊一覧
合わせて読みたい「東寺」に関する記事
▶︎東寺・立体曼荼羅の中心に座す大日如来|心が整う仏像空間へ
京都の旅で心に残る仏像との出会いを
京都は、四季折々に表情を変える街並みと、歴史ある寺院や仏像が息づく場所です。春の桜、夏の青もみじ、秋の彩り、冬の静けさ──どの季節にも、それぞれの魅力があります。寺社を訪れるたびに、時の流れとともに変わる景色と、変わらない祈りの姿に心が整うことでしょう。
普段は非公開の仏像や特別拝観の機会も多く、歴史や信仰に触れながら深く心に残る時間を過ごせます。訪れる際は、拝観料や公開期間を事前に確認し、公共交通機関を利用することでスムーズにアクセスできます。人が少ない時間帯を選べば、より静かに仏像と向き合うことができるでしょう。
どの季節も、それぞれの光と空気の中で仏像と出会える京都。日常から少し離れて、心を整える旅に出かけてみてはいかがでしょうか。
🌿 京都旅をさらに特別に ── 着物で巡る寺社と仏像の世界
せっかくの京都旅、寺社や仏像めぐりをより思い出深い時間にしたい方へ。
京都駅/烏丸駅周辺で、早い・手軽・着崩れないと評判の
夢館(ゆめやかた)着物レンタルなら、
季節の風を感じながら、風情ある和装でゆったりと京都の街を散策できます。
四季を通して、仏像との出会いをより深く味わいたい方におすすめです。
おわりに|仏像を通して心にふれる時間を
仏像の世界は、本当に、奥深くて、美しくて、人の心に静かに響くものだと思います。
そこには、言葉にしきれない感動や、目の前の仏像から伝わってくる優しさ、強さ、そして静けさがあります。
それを理解できる人は少ないかもしれないけれど、私が発信し続けることで、「なんかいいかも」って思ってくれる人が、きっと少しずつ増えていくーーー
仏像の魅力を、もっともっと、世の中に伝えていけますように🙏✨
そんな思いを込めて、このブログを書いています😊

