仏師(ぶっし)とは?
仏師とは、仏像を専門に彫る彫刻家のこと。仏教の伝来とともに日本に根付き、寺院に仏像を納める文化とともに発展してきました。仏師は職人でありながら芸術家でもあり、時代ごとの信仰や美意識を仏像に込めてきたのです。
時代ごとの主な仏師と代表作
仏師名 | 活躍時代 | 代表作・特徴 |
---|---|---|
鞍作止利 | 飛鳥時代 | 法隆寺「釈迦三尊像」など、日本最古の仏師として知られる |
将軍万福 | 奈良時代 | 興福寺「八部衆立像」「十大弟子立像」などの乾漆仏を制作 |
定朝 | 平安時代 | 平等院鳳凰堂「阿弥陀如来坐像」。“定朝様”という優美な様式を確立 |
運慶 | 鎌倉時代 | 東大寺「金剛力士像」、円成寺「大日如来坐像」など、写実的な様式を切り開く |
快慶 | 鎌倉時代 | 東大寺「金剛力士像」、浄土寺「阿弥陀三尊立像」など、繊細で優美な作風が魅力 |
湛慶 | 鎌倉時代 | 運慶の子。金剛力士像の制作にも参加。慶派の中核仏師 |
円空 | 江戸時代 | 全国に約12,000体の「円空仏」を残す。素朴で力強い作風 |
木喰明満 | 江戸時代 | 微笑仏で知られる「木喰仏」。柔らかく親しみやすい仏像を多数制作 |
向吉悠睦 | 令和時代 | 現代を代表する仏師。法楽寺や高野山などに作品を奉納 |
運慶と快慶|日本仏像彫刻の巨匠
日本の仏師で最も有名な人物は、運慶(うんけい)です。
運慶(うんけい)とは
平安末〜鎌倉初期にかけて活躍した、日本仏像史の最重要人物。父・康慶のもとで修業し、写実性と躍動感あふれる新しい仏像表現を確立しました。
特に東大寺南大門の「金剛力士像(仁王像)」は、彼と快慶(かいけい)の共同制作による彫刻史上の金字塔です。
代表作
- 東大寺「金剛力士像」
- 円成寺「大日如来坐像」
- 願成就院「不動明王立像」「毘沙門天立像」
- 興福寺「無著・世親立像」
快慶(かいけい)とは
運慶と同時代に活躍した仏師で、康慶の弟子。運慶が力強さを持ち味とするのに対し、快慶は繊細で優美な作風を得意とし、多くの阿弥陀像を残しています。
代表作
- 浄土寺「阿弥陀三尊立像」
- 東大寺俊乗堂「阿弥陀如来立像」
- 東大寺「僧形八幡神坐像」
- 弥勒菩薩立像(ボストン美術館)
📍注目仏像|運慶のデビュー作「円成寺 大日如来坐像」
運慶が20代前半で手がけた現存最古の作品であり、彼のデビュー作として極めて重要な仏像です

※こちらの仏像画像は、円成寺「大日如来坐像」の雰囲気をお伝えするためにAIで作成したイメージです。実際の仏像とは一部異なる点もありますが、仏師・運慶の世界観を感じていただけたら嬉しいです。
「大日如来」とは
密教の根本仏であり、あらゆる仏の本体とされる存在です。王者の姿で宝冠や瓔珞を身につけています。
制作時期と経緯
この像は平安時代末期、1175年(安元元年)11月24日に着手し、翌年10月に完成しました。台座裏の墨書銘に「大仏師康慶、実弟子運慶」と記されており、運慶が父・康慶の指導のもと、約11カ月かけて制作したことがわかります。
技法と特徴
檜の寄木造、玉眼嵌入、漆箔仕上げで、智拳印を結ぶ金剛界大日如来像です。若々しく張りのある顔立ちや生気に満ちた肉体表現は、それまでの平安仏像(定朝様)に見られる穏やかさに加え、鎌倉時代に花開く写実的な新しい表現の萌芽を示しています。
意義
運慶の現存する最初の遺作であり、日本仏像彫刻史における画期的な作品と評価されています。この像には、後に鎌倉時代の仏像黄金期を牽引する運慶の才能と新時代の気風がすでに現れています。
まとめ
円成寺「大日如来坐像」は、運慶が青年期に父・康慶のもとで入念に仕上げた記念碑的な国宝であり、写実性と新しい芸術性を予感させる、日本彫刻史上きわめて重要な仏像です。
実際に「円成寺 大日如来坐像」を見て感じたこと

奈良国立博物館「超 国宝」展で至近距離から拝観しました。
とにかく美しい。
穏やかでありながら芯の強さを感じさせる面差し。左右対称に整ったお顔立ち、引き締まった体躯、滑らかに流れる衣文線――どこを見ても、一分の隙もない美しさがありました。
それでいて、どこか人間味を帯びたあたたかさも感じさせ、見る人の心を自然と静けさへと導いてくれます。
これまで沢山の仏像を拝観してきましたが、こんなにも美しく、どれだけ観ても不思議と見飽きることはないほど、魅了されました。
20代後半のデビュー作だというのも驚きです。
博物館での展示の場合、照明や展示台の工夫により多方向から細部まで観察できる可能性が高いので、仏像好きの私にとって最高の場所です。
この「大日如来坐像」の美しさが忘れられず、また、若き日の運慶による精緻な造形を間近で鑑賞できる貴重な機会はなかなかないと思い、九州から2度も奈良へ足を運びました笑
それほどまでに魅了された仏像なのです。
次回は通常安置されている寺院、円城寺で拝観したいと思います。
おわりに|仏師を知ることで、仏像の世界がもっと深くなる
仏像を見るとき、その背景にある「仏師の思い」や「時代の美意識」を知っていると、見え方が大きく変わります。
運慶と快慶という2人の巨匠が生み出した仏像は、今なお多くの人を魅了し、心を癒してくれます。
次に仏像を訪れるときは、ぜひ「誰がどんな思いで彫ったのか」にも思いをはせてみてください。きっと新しい出会いが待っているはずです。
「仏像が好き」「ひとりでゆっくり心を整えたい」と思う誰かに届きますように🍀
🇺🇸 英語要約
Discover the Art of Japanese Buddhist Sculptors: Unkei and Kaikei
This article introduces the world of Busshi—master sculptors of Buddhist statues in Japan. Among them, Unkei and Kaikei, two legendary figures of the Kamakura period, stand out for their groundbreaking realism and spiritual depth. Learn about Unkei’s debut masterpiece, the Dainichi Nyorai statue at Enjo-ji Temple, celebrated for its youthful strength and refined form. Explore how Unkei’s powerful, lifelike expressions and Kaikei’s elegant, serene style helped shape the golden age of Japanese Buddhist sculpture. The article also guides readers through other key works, their historical background, and their lasting impact on Japanese art. Whether you’re a beginner or a seasoned admirer, this is your gateway to appreciating the timeless beauty of Japan’s sacred art.