奈良・五劫院(ごこういん)に伝わる
五劫思惟阿弥陀仏坐像
(ごこう しゆい あみだぶつ ざぞう)は、
鎌倉時代に制作された国指定重要文化財の秘仏で、
“アフロ仏像”と呼ばれる
独特の頭部造形をもつ阿弥陀如来像です。
アフロヘアのようなボリュームある
頭髪が印象的ですが、
なぜこのような通形の阿弥陀仏と
異なるお姿をされているのでしょう。
それは、一切衆生を救済するために
五劫というとても長い期間瞑想に入り、
長い修行の間に髪が伸びてしまったことを表現しています。
ボリュームのある頭髪は
その様子を表したのが五劫思惟阿弥陀仏です。
本記事では、
仏像初心者の方にも分かりやすく、
✔︎ 五劫思惟阿弥陀仏坐像の意味
✔︎ 見どころ
✔︎ 歴史的背景
を解説するとともに、実際に拝観した体験を交えながら、
その魅力を丁寧にお伝えします。
五劫思惟阿弥陀仏坐像とは?
- 重要文化財
- 秘仏
- アフロヘアのような頭部が特徴
五劫思惟阿弥陀仏坐像(ごこうしゆい あみだぶつざぞう)とは、
阿弥陀如来がまだ仏になる前、
「法蔵菩薩(ほうぞうぼさつ)」として
修行していた頃の姿を表した仏像です。
法蔵菩薩は、すべての人を救う浄土をつくるため、
どのような世界がよいのか、
どんな救いが本当に必要なのかを、
五劫という気の遠くなるほど長い時間、
静かに考え続けたと伝えられています。
『無量寿経』には、その間に四十八の願いを立て、
一つひとつを深く思い巡らせたことが説かれています。
五劫思惟阿弥陀仏坐像は、
すでに完成された仏としての阿弥陀如来ではなく、
人々を救いたいという願いが、
まさに形になろうとしている瞬間をあらわした、
とてもめずらしい仏像です。
その静かな姿からは、長い時間をかけて思い続けた誓いと、
やさしいまなざしが感じられます。

五劫院の五劫思惟阿弥陀仏坐像の概要
材質・技法と制作年代
- 鎌倉時代に制作
- 木造漆箔の阿弥陀如来坐像
- 像高は約1.2メートル
この像種の中では最大級の作例です。
螺髪(らほつ)部分を除き、
頭部から体幹の大部分が
一材から彫り出される「一木造」である点が、
大きな技法的特徴とされています。
五劫思惟阿弥陀像の作例の中でも、
もっとも古く、
基準作と位置づけられる重要な一尊です。
所在と寺院について
本像は、奈良市北御門町にある
華厳宗寺院・五劫院(ごこういん)の
本尊(秘仏)として伝えられてきました。
国の重要文化財に指定されており、
奈良の「きたまち」エリア、
東大寺大仏殿・正倉院の北側に位置しています。
最大の特徴|アフロ状に盛り上がった巨大な螺髪(らほつ)
五劫院像の最大の特徴は、
頭部全体が半円球状に大きく膨らんだ、
極端に誇張された螺髪(らほつ)表現です。
一般的な阿弥陀如来像では、
整然と並んだ小さな螺髪が表されますが、
五劫思惟阿弥陀仏坐像では、それらが幾重にも積み重なり、
まるで髪が伸び続けて堆積したかのような姿をしています。
この「アフロ状」の巨大な髪塊は、
五劫という想像を絶する長期間、
思惟を凝らし続けた結果を
視覚的に表現したものと解釈されています。
量感のある頭部に細かな螺髪を刻み込むことで、
「時間の堆積」そのものを造形化している点が、
この仏像最大の見どころです。

顔貌と表情|親しみと静けさをたたえた相貌
顔立ちはふっくらとした卵形で、
丸みのある頬と小さめの口元が印象的です。
どこか「お多福」を思わせる親しみのある表情で、
厳格な如来像というよりも、
包み込むような優しさが前面に出ています。
瞑想中のため目や口は閉じています。
坐姿・印相に込められた意味
五劫思惟阿弥陀仏坐像では、
衣の内側で阿弥陀定印を結ぶ姿が定型とされます。
量感豊かな造形や身に纏う厚い袈裟、
腹前で定印を結んだ両手両足を衣にくるむ異国風の姿からは、
重源が本像を中国からもたらしたという縁起も
単なる伝承ではないように感じられます。
これは、外に向かって説法する姿ではなく、
内面で誓願を熟考し続ける「思惟の仏」であることを示しています。
結跏趺坐またはそれに準じた安定した坐法をとり、
全身は大きな量塊としてまとめられ、
動きを極力抑えた静謐な造形が特徴です。

全体のプロポーションが語る教理
巨大な頭部に対して体幹はやや控えめに造られており、
造形の焦点は「思惟する頭」に強く集約されています。
全体としては、ずんぐりとした圧縮感のあるシルエットとなり、
かわいらしさと異形性が同時に感じられます。
写実的な人体表現よりも、
「教えを可視化すること」を優先した造形である点が、
一般的な阿弥陀如来像と決定的に異なります。
重源上人との関わりと伝承
五劫院の縁起によれば、
この像は東大寺再興で知られる重源上人が、
宋に渡った際、浄土教の祖・善導作と伝えられる
五劫思惟阿弥陀像を請来したことに始まるとされています。
五劫院像は、東大寺勧進所像などとともに、
重源請来三体のうちの一体とする説もあり、
残る一体は現在行方不明とされています。
鎌倉期の浄土信仰と、
東大寺復興事業という歴史的文脈を同時に伝える、
極めて貴重な作例です。
奈良・五劫院について|五劫思惟阿弥陀仏坐像が伝えられてきた場所
五劫思惟阿弥陀仏坐像は、
奈良市北御門町にある華厳宗寺院・五劫院に
本尊として伝えられてきました。
本像は国の重要文化財に指定されており、
秘仏のため、拝観は常時可能ではありません。
特別公開や事前予約制となりますので、
参拝前には必ず最新情報を確認することをおすすめします。
また、五劫院ではやや距離がある外陣からの拝観となるため、
特徴的な頭頂部の全容を確認することはできず、
正面からのお姿のみを拝する形となります。
全身をぐるりと鑑賞できる機会は非常に限られています。
九州国立博物館「法然と極楽浄土」展での拝観体験
私が実際にお会いできたのは、
2025年10月、
九州国立博物館で開催された特別展「法然と極楽浄土」でした。
ずっと憧れていた仏さまに、
地元・福岡でご縁をいただけたことは、
忘れられない体験です。
展示では、像の周囲を360度回りながら、
間近で拝観できました。思っていた以上に大きく、
どっしりとした迫力がありながらも、
表情はとてもやわらかく、親しみを感じました。
正面だけでなく、横や後ろから拝することで、
「長い時間を生き抜いた思索の重み」が、
より強く伝わってきたように思います。

奈良・五劫院を実際に訪ねて
展示期間中の2025年10月、
奈良の五劫院も実際に訪れました。
このときは像が九州国立博物館展示中だったため寺院は閉まっており、
本堂の前までしか行くことはできませんでしたが、
この場所で長い年月、人々の信仰を集めてきた仏さまに思いを馳せる、
静かな時間を過ごすことができました。

仏像の中でも、今なお多くの人の心を惹きつける存在が
奈良・興福寺の阿修羅(あしゅら)像です。
▶ 阿修羅像の表情・造形・魅力を初心者にもわかりやすく解説した記事はこちら
五劫院の参拝情報とアクセス|実際に歩いて感じた距離感
奈良駅から般若寺まで
私は奈良駅からバスを利用して般若寺まで向かい、
そこから徒歩で五劫院へ向かいました。
般若寺から五劫院へ(徒歩)
Googleマップを頼りに歩きましたが、
地図で見るよりも体感としては近く、迷いにくい印象でした。
所要時間はおそらく15分ほどです。
観光地の賑わいから少し離れた静かな道で、
「本当にこの先に寺院があるのだろうか」と思うほど人通りが少なく、
逆に心が落ち着いていくのを感じました。
五劫院から東大寺・戒壇堂へ(徒歩)
五劫院から戒壇堂までも、ほぼ一本道で、こちらも15分前後。
バスを使うほどの距離ではなく、徒歩で十分に巡ることができます。
立ち寄りたい静かな休憩スポット|茶廊(サロウ) 葉風泰夢(ハーフタイム)
戒壇堂は大仏殿とは別途参拝料が必要なため、
入口で引き返す方も多く、堂内は比較的落ち着いて拝観できます。
参拝後は、東大寺ミュージアム内の併設カフェ
「茶廊(サロウ) 葉風泰夢(ハーフタイム)」に立ち寄りました。
南大門を眺めながら過ごせる穴場的な空間で、
外の混雑が嘘のように静かでした。

五劫思惟阿弥陀仏坐像が伝えてくれるもの
五劫思惟阿弥陀仏坐像は、
「救いは、気の遠くなるような思索と
誓いの積み重ねの先にある」ということを、
姿そのもので語りかけてくる仏像です。
完成された仏ではなく、
誓願が熟す臨界点をかたどったこの像は、
浄土教の中でも特異で、
どこか人間的な阿弥陀の姿を感じさせます。
もし出会う機会があれば、
ぜひその大きな頭部に刻まれた「時間」を感じながら、
静かに向き合ってみてください。
長い歴史と造形の魅力を持つ
五劫思惟阿弥陀如来像に会いに行くには、
事前予約や公開時期を押さえておくことがポイントです。
次の章では、
五劫院への具体的なアクセス方法と参拝時の注意点を紹介します。
奈良・五劫院|参拝情報(拝観・予約)
五劫思惟阿弥陀仏坐像を安置する五劫院は、
奈良市北御門町にある華厳宗の寺院です。
秘仏として通常は非公開ですが、
事前予約や特別公開の機会に拝観が可能です。
国の重要文化財である本尊をゆっくりと鑑賞したい方は、
ぜひ事前予約や公開スケジュールをチェックしてください。
- 所在地:奈良市北御門町24
- 拝観時間:9:00〜15:00(要予約)
- 拝観料:志納(心ばかりの気持ち)
- 休日:1月1日〜15日・8月12〜31日
- 特別公開:毎年2月と8月のそれぞれ10日間、
期間限定で本尊が一般に公開
(※2月は要予約、8月初旬の特別公開期間中に限り予約不要で拝観可能) - 予約・お問い合わせ:0742-22-7694(五劫院)
特別拝観|2026年は、2月5日〜2月15日(9:00〜15:00・要予約)
五劫院の本尊・五劫思惟阿弥陀仏坐像は、
年間に特定の期間だけ、開扉される特別公開が行われ、
拝観できる貴重な機会があります。
2026年は、2月5日〜2月15日(9:00〜15:00・要予約)に
五劫思惟阿弥陀仏坐像の特別公開が予定されています。
この期間中は、貴重な観賞ができるチャンスです。
※日程や拝観可否は変更となる場合があるため、
訪問前に寺院への確認をおすすめします。
訪問前にチェックするのがおすすめです。

五劫院へのアクセス(行き方)
五劫院は、奈良公園周辺の東大寺や正倉院の北側に位置し、
交通アクセスも良好な場所にあります。
公共交通機関を使った参拝計画が立てやすいのも魅力です。
- 所在地:奈良県奈良市北御門町24
- 最寄り駅:JR奈良駅・近鉄奈良駅
- バス:奈良交通バス「青山住宅方面行き」乗車 → 「今在家」下車 徒歩約5分
- 車:普通車駐車場あり(無料・10台)
徒歩でも奈良公園、東大寺や興福寺などの観光スポットと
組み合わせて巡ることができ、
1日プランにも組み込みやすい立地です。
もっと奈良の仏像を巡りたい方へ
ガイドブック|たびカル 奈良 仏像めぐり
私が奈良で仏像巡りをする時に、
とても参考にしているガイドブックが、
「たびカル」シリーズの
【奈良 仏像めぐり】です。(定価 800円)
今回の五劫思惟阿弥陀如来像に
会いに行こうと決めるきっかけにもなりました。
写真も見やすく、公共交通での回り方も分かりやすいので、
初心者の方にもおすすめできます。
※ 私が使っているガイドブックは
こちらにまとめています。
▶︎【京都・奈良】仏像巡りに行く前に|私が使っているガイドブック

貴重な仏像の写真もたくさん掲載されているので、
見ているだけでも楽しいです。
今は中古で出回っていることが多いようです。
▶︎ メルカリ で探してみる
よくある質問|五劫思惟阿弥陀如来像Q&A
五劫思惟阿弥陀如来像は、いつ拝観できますか?
五劫院の五劫思惟阿弥陀如来像は、
通常は非公開で、
常時拝観することはできません。
毎年2月と8月のそれぞれ10日間、
期間限定で一般に特別公開特別公開の期間が設けられていて、
その際にのみ拝観することができます。
詳しい公開時期は訪問前に奈良市観光協会や
公式案内で最新情報を確認するのがおすすめです。
※2026年は、2月5日〜2月15日(9:00〜15:00・要予約)です。
拝観には予約が必要ですか?
特別公開の際は、2月は要予約、
8月初旬の特別公開期間中に限り予約不要で拝観可能です。
必ず事前に確認してから訪れるようにしましょう。
静かな環境で拝観できるよう配慮された公開方法が取られています。
五劫院は、徒歩でも巡れますか?
はい、徒歩でも十分に巡ることができます。
私は般若寺から五劫院まで徒歩で向かいましたが、
地図で見るよりも近く感じ、
迷いにくい道で、およそ15分ほどで到着しました。
奈良駅から般若寺まではバスを利用し、
その後は徒歩で巡るルートがおすすめです。
五劫院から東大寺まではどのくらいの距離ですか?
五劫院から東大寺の戒壇堂までは、徒歩でおよそ15分ほどです。
ほぼ一本道で歩きやすく、バスを使うほどの距離ではありません。
大仏殿周辺の賑わいとは対照的に、この道中は人通りが少なく、
静かに奈良の町を歩くことができます。
五劫院周辺は混雑しますか?
五劫院周辺は、奈良公園や東大寺大仏殿周辺と比べると、
観光客は非常に少なく、落ち着いた雰囲気です。
一本中に入るだけで驚くほど静かになり、
「本当にこの先に寺院があるのだろうか」と感じるほどの場所もあります。
静かに仏像や寺院と向き合いたい方には、
特におすすめのエリアです。
参拝後にゆっくり休める場所はありますか?
東大寺ミュージアム内の併設カフェ
「茶廊(サロウ) 葉風泰夢(ハーフタイム)」がおすすめです。
目の前に南大門を眺めながら過ごせる穴場的な空間で、
混雑を避けてゆっくり休憩することができます。
静かな参拝の余韻を楽しみたい方にぴったりの場所です。
※本記事にはアフィリエイト広告が含まれています。

